31短歌26)その涙、本物? それとも拍手喝采のため? ― さやか、安っぽい感情に対する(月例の?)いらだちをぶちまける

26)(題しらず)

よのなかのうきもつらきもつげなくにまづしるものはなみだなりけり

「世の中の憂きも辛きも告げなくに先づ知るものは涙なりけり」

よみ人しらず

♪(吟)♪

★その涙、本物? それとも拍手喝采のため? ― さやか、安っぽい感情に対する(月例の?)いらだちをぶちまける★

冗悟:さぁてと、「恋」ももう終わっちゃったことだし、今度は溜息ついて泣く頃合いだね・・・めそめその準備はできてるかな、さやかさん?

さやか:それが今度の新しい話題ですか ― 「涙」?

冗悟:正確には「哀傷(lamentation)」だけどね。

さやか:わかりました。あんまりわたしの好きな話題じゃないけど。

冗悟:誰だって嘆き悲しむのは好きじゃないさ。だからこそ、悲しい思いを抑えきれずに「詩」の中にぶちまけるのさ・・・あるいは「涙」に、ね。

さやか:前に冗悟サンが言ってたこと思い出しました ― 平安調短歌の中で「秋」が語られることが一番多いのは、それが悲しい季節だからだ、って。(第十三話参照)それって「悲しみ」全般にも当てはまりますか? 「悲しい」詩は「うれしい」詩よりも多いんですか?

冗悟:「悲しみ」と「喜び」は区別するのが難しいよ、この詩に見る通りね。それと、ちょうど前回の詩で「恨み」と「愛情」とがなかなか区別し難かったのと同じようにね。

さやか:わかりました。

冗悟:ちょっと待ってね・・・ぅゎぁ! 「涙」って語を含む短歌の数は、八代集約9,700首のうちで383首もあるよ! 物凄く多いね、「桜」の311首と比べてみても。

さやか:なんでみんなそんなに泣くのが好きなんですか?

冗悟:さっき言った通り、誰も泣くのが好きなわけじゃない。一人心の中で泣くのに耐えきれないから、詩の中で泣き叫ぶことで心のガス抜きしてるのさ・・・それが「悲しみ」や「涙」が短歌の中でこんなにも大人気の理由だよ。

さやか:(…)お言葉を返すようですけど冗悟サン、わたし、それって少し違うと思います。

冗悟:そう? どうしてそう思うのかな?

さやか:世の中には「悲しい」歌が多すぎると思います。それと「愛」の歌も多すぎ・・・どっちもあまりに多すぎて、不誠実な響きがします。

冗悟:つまり、君の周りの大多数の「悲しい」歌や「愛」の歌は、さやかさんにはニセモノっぽく聞こえるってこと?

さやか:冗悟サンはそう感じません?

冗悟:君の気持ち、わかるよ ― そういう歌は、人間の素直な本当の感情から生まれたものじゃなくて、何か不純で商業的なもの、例えば拍手喝采してもらいたいとか金儲けしたいとか、そういう動機から生じたものなんじゃないか、って感じてるわけだね?

さやか:冗悟サンはいつでも的のど真ん中を射抜くんですね。

冗悟:俺のことは「Duke Jaugou(デューク冗郷)」と呼んでもらおう・・・あるいは「Jarugo 13(ジャルゴ13)」と、な。

さやか:なんですかそれ?

冗悟:・・・気にするな。俺はただ「的を大きく外すこともできる」のを証明してみせただけだ。

さやか:冗悟サンって時々わけわからないこと言ってわたしをに巻くけど、それでも不愉快じゃないのはたぶん、わざとわたしがついて来れないように仕向けてるからだと思う・・・それもものの見事に大成功・・・

冗悟:お世辞をどうもありがとう。

さやか:・・・わたしのせりふ、最後まで言わせてください ― わたし別に冗悟サンにお世辞言おうとしてたわけじゃありません。わたしが言おうとしたのは、「愛」とか「悲しみ」とかそういう安っぽい世間ウケする感情を扱う歌の多くは、わたしには全然ピンと来ないし、聞いてて不愉快になってくるってことです。それはひとえに、わたしが気付いてるからです、その種の歌はわたしに向かってこう意図的に働きかけてるってことを ― さぁ付いて来い、拍手しろ、お金を払え、こっちの言う通りにハッピーな気分になれ、悲しがれ ― でもそれは、ものの見事に大失敗。もし「愛」とか「悲しみ」とかの安っぽいテーマでこのわたしを感動させるつもりなら、もっと見事にやってほしい、冗悟サンがやってくれるみたいに。実際には、わたしの周りの歌のほとんどはあまりにも安っぽくてばかばかしすぎて、わたし思わず激怒して叫びたくなっちゃう ― ねぇちょっと、わたしのこと何だと思ってるわけ? コロッと暗示にかかる馬鹿な猿人間? 何でも言うこと聞くおとなしい羊? わたしのことナメないでよね! わたしは人間なの! 本物の「悲しみ」の感情がわかる人間なの! 「恋愛」のほうはまだわからないけどっ!

冗悟:(…)

さやか:ごめんなさい、ちょっとアツくなりすぎちゃった ― 置いてけぼりにしちゃいました、冗悟サン?

冗悟:「Jarugo 13(ジャルゴ13)」とか名乗って君を置いてけぼりにしたこの俺のこと、今度は君が置いてけぼりにして「これでおあいこね」ってこと・・・かな?

さやか:ぃぇ、きっと今日はわたしのヘンな日なんです。わたしときどき自分で自分が抑えられなくなるんです・・・月に一回ぐらい・・・わかります?

冗悟:わかんなーい、とか言うつもりはないよ、俺は、君の気分の月ごとの浮き沈みのエクスパートってわけでもないけどね・・・ぁ、それでふと思い付いた、何かこう君の身体の中からじわーっと湧き出してきて「気をつけて、さやか、月のものが来るわよ」とか教えてくれるものってあるのかな、カレンダー見てわかる前に?

さやか:(…)

冗悟:ぁ、ごめんね、あまりにも不謹慎なことずけずけ聞いちゃったかな・・・俺はただ知りたかっただけで、ほら、その、気持ちの波に合わせて「涙」がじわーっと湧き出してくるあの感じって、君の身体の中の「血」がじわーっと沸き上がって君がいつになく興奮しやすくなるその感じに、何となく似てるんじゃないかな、とか・・・ごめんね、気に障ったら忘れてくれる?

さやか:お医者さんみたいに詳しくはお答えできませんけど、冗悟サン、それほど的外れなこと言ってなかったと思います。わたし、来る時は「あっ、来る!」ってわかります ― 「血」も「涙」も。わたしの中で(来てないな、これ)って感じる時は、涙も、歓声も、歌も、詩も、文章も人も、とにかくわたしには「なんなのそれ?」って感じです。

冗悟:今回のこの詩はさやかさんの中で「来てる!」って感じ、した?

さやか:来てます、いつも通り ― 冗悟サンがわたしに「来てる!」って感じさせてくれない時なんて一度もないです(you never fail to make me feel it comingは「あなたは必ずわたしを(性的絶頂まで)イカせてくれる」の意味にも取れるちょっとアブない言い回し)

冗悟:それを聞いてほっとしたよ・・・っていうか、君の口からそれ聞いてほとんど興奮しそうになっちゃった・・・ぁ、ぅん、ごめん、さやかさん、俺絶対いやらしく付け込んだりしないからさ、君のその・・・「血の高ぶり(blood fever)」に・・・ってことで、今日は早めにおしまいにしようか?・・・今日の君は最高に冴えてる感じじゃないし、この詩自体もこれ以上しかつめらしく吟味する必要がある素材でもないし。

さやか:そうですね。お見苦しいとこお見せしてごめんなさい。次はちゃんとまともな状態で戻って来ます。

冗悟:いつでも戻っておいで、マトモだろうがそれ以上だろうがかまわないから。いつでも歓迎するよ、さやかさん。じゃまた・・・それと、お大事に。


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26)(題しらず)

よのなかのうきもつらきもつげなくにまづしるものはなみだなりけり

「世の中の憂きも辛きも告げなくに先づ知るものは涙なりけり」

『古今集』雑・九四一・よみ人しらず

『悲しいことや辛いことがあるたびに、「私は悲しい」・「私は辛い」と特に教えられたわけでもないのに、真っ先に出てきてはそうした気持ちをこの私に教えてくれる、不思議な先触れ役が、涙なんですよね・・・』

Even before I know how sad or painful it can be

Tears will let me know it’s time to sigh and weep.

よのなか【世の中】〔名〕<NOUN:the world, life>

の【の】〔格助〕<POSTPOSITIONAL PARTICLE(POSSESSIVE):’s, of, belonging to>

うし【憂し】〔形ク〕(うき=連体形)<ADJECTIVE:sad, gloomy, melancholic, lamentable>

も【も】〔係助〕<POSTPOSITIONAL PARTICLE(OBJECT)>

つらし【辛し】〔形ク〕(つらき=連体形)<ADJECTIVE:harsh, painful, hard>

も【も】〔係助〕<POSTPOSITIONAL PARTICLE(OBJECT)>

…what’s sad and painful in life

つぐ【告ぐ】〔他ガ下二〕(つげ=未然形)<VERB:inform, tell, teach>

ず【ず】〔助動特殊型〕打消(な=未然形)<AUXILIARY VERB(NEGATIVE):not>

く【く】〔接尾〕<MODAL>

に【に】〔接助〕<POSTPOSITIONAL PARTICLE(CONCESSION):although, and yet>

…without being told [by me]

まづ【先づ】〔副〕<ADVERB:first of all, at first>

しる【知る】〔他ラ四〕(しる=連体形)<VERB:know, find>

もの【物】〔名〕<NOUN:a thing>

は【は】〔係助〕<POSTPOSITIONAL PARTICLE(SUBJECT)>

なみだ【涙】〔名〕<NOUN:tears>

なり【なり】〔助動ナリ型〕断定(なり=連用形)<AUXILIARY VERB:be>

けり【けり】〔助動ラ変型〕過去(けり=終止形)<AUXILIARY VERB(DISCOVERY):I found out>

…tears are the first one to know they’re coming

《yononaka no uki mo tsuraki mo tsuge naku ni mazu shiru mono wa namida nari keri》


■涙 ― この不思議な感情の先触れ役■

 それは来るべき時には決まってやって来る。悲しいから泣くのか、はたまた泣くからこそ悲しいのか? ― 理由は我々の問うべきことではない ― 我々はただ従うだけである。何故ならそれは「悲しみ」を、さらには「喜び」さえも、いち早く確実に伝える合図なのだから ― 「涙」 ― 来ちゃった時には、あれこれ考えず、ただ感じるべし・・・そして、泣くべし・・・

《うきせにもうれしきせにもさきにたつ なみだはおなじなみだなりけり》『千載集』雑・一一一七・藤原顕方(ふじわらのあきかた) 憂き瀬にも嬉しき瀬にも先に立つ 涙は同じ涙なりけり(悲しい折りも、嬉しい折りも、真っ先に出てくるものは、同じ涙なのだなぁ)

「英語を話せる自分自身」を自らの内に持つということは、「さやかさん/冗悟サン」みたいな会話相手が隣にいるみたいなもの。
実際の会話相手の提供はしませんが、「さやかさん/冗悟サン」との知的にソソられる会話が出来るようにはしてあげますよ(・・・それってかなりの事じゃ、ありません?)
===!御注意!===
現時点では、合同会社ズバライエのWEB授業は、日本語で行なう日本の学生さん専用です(・・・英語圏の人たちにはゴメンナサイ)